中国でカブトゴケモドキを食べる 樋口正信 [ライケン 10(2): 28, 1996]

1996年の8月から9月にかけて四川省南西部地域において中国科学院昆明植物研究所と共同調査を行った.参加者は門田裕一(国立科学博物館;種子植 物),樋口正信(国立科学博物館;コケ植物〉,王立松(中国科学院昆明植物研究所;地衣類),袁明生(中国科学院成都生物研究所;菌類)の4名である.暑 さと寒さ,ホコリと雨,絶壁にへばりつく悪路などいろいろと困難はあったが,ヒマラヤの東に位置する横断山脈の標高2000mから4000mにかけて,多 様な植生と植物,菌類を見ることができ,また採集品も多く得られ,非常に興味深い調査であった.
参加者の一人,王立松氏は本誌(10巻1号)でも紹介されているように,若手の地衣類研究者で,調査終了後,昆明の彼の家ヘ夕食に招待された折,地衣類の料理をごちそうになった.材料に使われた地衣類は,カブトゴケモドキ(Lobaria kurokawae) で,彼自身が昆明の西方の大理(大理石の産地として有名)付近で採集したものである.その料理は,乾燥保存したカブトゴケモドキを簡単に水洗し,ベーコン と赤いピーマンと一緒に油で炒めたもので,出来上がった状態のカブトゴケモドキは黒っぽかった.そのものの味はほとんど感じないが,歯ごたえがかなりあ る.以前,イワタケを三杯酢で食べたことを思い出したが,そちらのほうが日本人向きのようである.イワタケの共生藻は緑藻であるのに対し,カブトゴケモド キは藍藻であり,この違いが味に反映しているのだろうか.「どうですか」と聞かれ,「酒の肴には向くと思うが,ご飯のおかずにはならない」と答えると, 「私もそう思う」と笑顔で答えられた.王氏の話しによれば,この他,中国では数種類の地衣類が食用として利用されており,他地域へ輸送,出荷されることは ないが,地元の市場には並ぶことがあるという.「体に何か効果はありますか」とこちらから尋ねると,「Umbilicariaはガンに効果がありますが,LobariaRamalinaにはありません」という答えだった.ついでに私が専門とするコケ植物で食用にするものがあるかと聞くと,即座に「ない」との返事だった.

トピックス
この記事に関連して井上正鉄先生(秋田大学)から以下の写真をご提供頂きました。
撮影場所:雲南省麗江の近傍
撮影日時: 2000年10月3日

これが,噂のカブトゴケ鍋!!どんな味なのでしょう? おぉ,本当に入っている!(矢印)
カブトゴケ鍋に使われた食材。青々とした野菜に混じってカブトゴケもおいしそうです。