スパイスカレー「Kalpasi」訪問記

【鵜沢美穂子.2023.スパイスカレー「Kalpasi」訪問記.ライケン22: 37–39.】

 インドにおいて,ウメノキゴケ類を「カルパシ」と呼び,スパイスとして用いることは,ライケンをご覧の皆さんには有名なことかもしれません.日本でカルパシを用いたスパイスカレーを食べることができる数少ない(もしかしたら唯一?)のお店が,東京都世田谷区経堂にあります.その名も「Kalpasi」です.企画展の取材のため,「Kalpasi」でカルパシが入ったカレーをいただいてきましたので報告します.

 「Kalpasi」はスパイスカレーマニアの人には超有名店で,完全予約制,予約困難店とインターネットで噂されていました.そのため,まずは,予約不要である下北沢の姉妹店Curry Spice Gelateria KALPASIに行き,様子をうかがうことにしました.カレーを注文し,店員の方に話しかけると,本日のカレーにカルパシは使用されていないとのこと.店長にさらに詳しく話を伺うと,下北沢店ではカルパシを使用したカレーを提供することはほとんどないとのことでした.しかし,「カルパシはここにあるのですけれど・・・」と,店内のおしゃれなディスプレイのガラスの中に入った乾燥カルパシを指さしてくれました.博物館の取材である旨を伝えると,親切に経堂(千歳船橋店)の店長に電話してくださり,無事,取材を申し込むことができました.

 「Kalpasi」の店長より,「カルパシを使用したカレーを3月○日~○日に提供します」と連絡があり,早速予約を取ることにしました.予約は公式LINEのみから,その前の週の金曜日22時に受付開始となっています.スマートフォンを握りしめてスタンバイし,22時0分に送信して,無事予約を取ることができました.

 「Kalpasi」に向かう電車の中で,LINEに本日のメニューの画像が送られてきました.よく見ると,背景にカルパシの写真がうっすらと引かれています(図1)!期待が一気に高まりつつ,住宅街の中にひっそりと佇む「Kalpasi」に入店しました.店長の黒澤功一さんから名刺をいただくと,「株式会社StoneFlower代表取締役」と書かれています(ストーンフラワーはカルパシの別名).ここにも,カルパシへのこだわりを感じました.


図1. メニュー表.


 提供された4種類のカレー(図2)の中の一つ「チキンシャクティ」にカルパシが使用されているとのことでしたが,なんと我々のために,同じカレーでカルパシ入り(図3)とカルパシなしを特別に作ってくださり,味比べをさせていただくことができました.カルパシ入りには小さな黒い破片が浮いています.味覚が大して鋭くない私には,正直な所,最初は違いがよく分かりませんでした.しかし,次第にカレーが冷めてくると,奥にある独特の味がはっきりとわかるようになりました.うまく表現できないのですが,臭みや辛みは全くなく,マイルドで,しかし主張ははっきりしている,他のスパイスにはない味に感じられました.

図2. 提供されたカレー.

図3. カルパシ入りのカレー.


 使用しているカルパシ(図4)を見せていただきながら黒澤さんに色々伺うと,インドで現地のカレーを食べ歩いている中でカルパシに出会い,その魅力に惹かれて,カルパシを使ったカレーを独学で作るようになり,店名にも名前を冠したとのことでした.カルパシは南インドのタミル・ナードゥ州でよく使われるそうで,スーパーにも売られていたとのことです.基本的な調理法は,乾燥カルパシをグラインダー(電動ミル)で粉砕し,ほかのスパイスと一緒に炒ってから,カレーに加えて煮込むそうです.カレー500 ccあたり,カルパシの量は1 g程度とのことです.粉砕したカルパシ(図5)の香りを嗅がせていただいたところ,驚くほど強い香りがして,何度も嗅いでしまいました.カレーも副菜もとにかく美味しくて,無事取材が終えられた安堵と満足感とともに帰途につきました.

図4. カルパシ.

図5. 粉砕されたカルパシ.


 完全予約制でハードルが高いですが,地衣類好きの方にはぜひ一度訪れていただきたい名店です.ご予約の際には,事前にカルパシ使用の日をご確認されることをおすすめします.

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©地衣類研究会 Lichenological Society of Japan